この日、僕は福山で有名なステーキハウスの一室で一人1万円近くもする高級ランチに舌鼓を打っていた。
雰囲気のある個室の隅にある小さな窓からは木漏れ日が差す中庭で木々が優しく揺れているのが見える。
目の前ではシェフが、鉄板の上で手際良くアワビやステーキを焼いていくのを見ながら、こちらが食べるペースに合わせて運ばれてくる料理をゆったりと口に運んでいく。
義父の退院祝い
この日、なぜ僕がこんな極上の体験をしていたのかというと、実は先日、病院で手術を受けた義父が無事退院した。
僅か2ヶ月の間に2回の手術を乗り越えた義父。
そんな義父に、僕の妻とその姉妹から義父への退院祝いの席に僕も参加していたからだった。
残念ながら義姉一家は別の用事で参加できなかったものの、義父と僕達家族、義妹家族の総勢10人で個室を借り切っての退院祝いとなった。
極上の料理に極上のお酒。
終始和やかに流れて行く会話。
こういうのを「極上の時間」というのだろうか。
ティータイムに送られたメッセージ
食事を終えた後は、アンティークの家具や楽器が飾られた専用のティールームへと移動し、デザートを楽しみながらのティータイム。
ここで義父に運ばれてきたデザートには、妻と姉妹の3人で考え抜いた退院祝いのメッセージが添えられていた。
あんた幸せじゃなぁ。
たった一言だった。
なんともそっけない、退院祝いというには余りに短いメッセージだったが、それを目にした義父の目には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。
メッセージの差出主の名は義母。
それは半年ほど前に若くして他界した義母から義父へと宛てたメッセージであり、義母がこの場に居たとしたら、間違いなくそう言うであろうというメッセージだったからだ。
胸が切なく痛む。
と同時にハッとさせられた。
死後の魂の行方
死。
それは誰にでも平等に訪れる。
これは避けようのない現実だ。
そして人が死んだ後はどうなるのか。
魂はあの世に行くと言われる事もある。
あるいは、死んだ人は僕たちの中で記憶の断片として生きているとも。
霊的な意味での魂がどうなるのか、正直いって僕には解らない。
だけど、精神的な意味での魂は僕たちの中で息衝いていて、僕たちがその気になれば、その魂を蘇らせる事ができる。
そんな事を感じた瞬間だった。
最後に
僕が死んだ後。
残念ながら、僕の魂が天国に行けるかどうかは随分と怪しいモンだけど、精神をこの世に残すことくらいは出来るかも知れない。
今を懸命に生きていれば、きっと。
さて、明日からまた頑張るとしよう。